この記事では「海の行政書士」とも呼ばれる「海事代理士」について詳しくご紹介しています。
海事関係の法律に基づく書類の作成や届け出の提出などが海事代理士の主な仕事です。
また、クルージング業務をおこなう会社の申請代理、中古船輸出入の手引きといった業務も海事代理士の管轄となります。
ここでは、そんな海事代理士の仕事内容・年収・試験に関する情報をまとめました。
海事代理士には受験資格がありません。
そのため誰でも目指せる職業となっています。
合格率が比較的高いこともあり「何か資格を得たい」と考えている方にはおすすめの仕事と言えますので、興味がある方はぜひこちらの内容をご覧になっていってください。
海事代理士とは?
「海事代理士」とは海事に関わる許認可や申請などを取り扱う職業、または資格のことです。
主な仕事としては船舶の登録や検査の申請、船の乗務員に対する労務代理、海事関連業務の届け出などが挙げられます。
海事法に関する書類の作成がメイン業務となりますので、海事代理士として働くには専門の法律知識のほか、顧客となる船会社とのコネクションが必要です。
ちなみに海事代理士は「職務上請求」ができる「八士業」のひとつとなります。
職務上請求とは仕事を遂行する上で必要な場合に限り、弁護士などと同じように第三者の戸籍謄本や住民票を取り扱える制度を指します。
なお、海事代理士は「海の行政書士」「海の司法書士」とも形容されることが多いのですが、実際に行政書士や司法書士の資格所有者が海事代理士の資格を得るケースも少なくありません。
ただし、海事代理士の場合は海事法が絡む案件が主となるため、試験に合格するには行政書士や司法書士とは異なる知識や知見が重要となります。
そんな海事代理士ですが、実は試験を受けるための資格や基準がありません。
誰でも試験を受けられるところ、また一度免許登録をすれば更新不要で海事代理士として活動できるところが大きな特徴として挙げられます。
海事代理士の免許があれば船舶会社や港湾関連企業などに就職しやすくなるので、海や船に関わる仕事に就きたいと考えている方にはおすすめの資格と言えそうです。
ということで、次に海事代理士の具体的な仕事内容を見ていきましょう。
海事代理士の主な仕事内容
海事代理士の仕事は都道府県や国土交通省といった行政機関に対して「海事関連法」に基づく届け出や登記、申請などをおこなう事です。
なお、海事に関連する法律には「船舶安全法」「海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律」「船舶職員及び小型船舶操縦者法」といったものが挙げられます。
こうした法律が関わってくる書類の代理作成や提出、許可を得るところまでを担当するのが海事代理士の仕事ということです。
行政機関に対する仕事をおこなうといった点では司法書士よりも行政書士に近いかもしれません。
そんな海事代理士の仕事には大きく分けて3つの種類があります。
・許認可に関する事務手続き
・船員の労務に関する事務手続き
・海事法務に関する事務手続きや登記
船が検査を受けるときの申請や認可手続きといった案件は海事代理士ならではの仕事です。
このほか、許認可の事務手続きにはクルーズ事業の許可申請といったものも含まれます。
簡単に言えば、国土交通省や管轄する自治体に対して「〇〇会社がクルージングの仕事をするのに許可をお願いします」といった内容の書類を代理で作成して提出するといったイメージです。
こうした仕事は行政書士や司法書士にはないものと言えるでしょう。
次に船で働く船員たちの労務手続きも海事代理士の仕事として多いものとなります。
船員の雇用手続きや給料・年金の計算などがこれに該当しますが、場合によっては社会保険労務士と連携して作業をおこなうこともあります。
なお、雇用に関する事務手続きをする上では労働法や年金法といった知識も必要です。
このことを考えると海事代理士には海事関連の法律以外にも求められる法律知識が多いと言えます。
そして3つ目の海事法務に関する事務手続きや登記ですが、こちらは司法書士に委託されることも少なくない仕事です。
中には破産した船会社の処理や所有する船の移転登記といった案件もありますが、こうした手続きには民事法・訴訟法・倒産法といった数多くの法律が絡んでくるため、海事代理士ひとりでこなすことはほとんどないとされています。(弁護士と連携して処理することが多い)
ちなみに船舶の登記依頼については司法書士に任されるケースが大半で、海事代理士への依頼は全体の3割程度に留まるようです。
海事代理士の平均給与・年収
それでは次に海事代理士の平均的な給与や年収を見ていきましょう。
海事代理士は基本的に個人事業主として「開業」するケースがほとんどです。
どれだけ依頼を受けられるかによって実質的な給与が決まってきますが、一般的な事務職よりは高い報酬を受け取れる仕事となっています。
なお、開業後10年ほどの実績を持つ海事代理士の平均年収は700万円~1000万円程度です。
月収で考えると60万円~90万円がベースとなりますが、ある程度自分の時間を確保できた上で上記の年収であれば好条件な仕事と言えそうです。
ただし、地域によっては昔から同じ海事代理士に仕事を依頼するケースが多く、新しく資格を得た人が参入するのは難しい仕事ともされています。
そのため、海事代理士の資格を取得するまでに独自のコネクションを構築しておくことが重要となるわけです。
海事代理士になるには?
ここからは海事代理士になるための試験内容や合格率をご紹介していきます。
海事代理士の試験内容は筆記試験と口述試験の2つです。
筆記試験は9月下旬ごろ、口述試験は12月上旬におこなわれます。
なお、筆記試験の会場は定められた各都市の運輸局となりますが、口述試験の会場は東京にある国土交通省の本省となります。
受験資格
先ほども少し触れましたが、海事代理士の試験に特定の受験資格はありません。
誰でも受験可能であるところが大きな特徴となっています。
ただし「海事代理士法第3条」に定められている欠格事由に該当する方は試験を受けられませんので予め理解しておきましょう。
(未成年者、禁錮刑以上から2年以上が経過していない等)
試験内容
海事代理士の筆記試験内容は一問一答のマルバツ形式、語群選択形式、短答式で構成されています。
口述試験については「船員法」「船舶法」「船舶安全法」「船舶職員及び小型船舶操縦者法」といった4科目に関する質問を受け、それに対して答えるといった形です。海事に関連した法律以外にも憲法や民法といった知識が求められますので、非常に幅広い範囲の勉強が必要と言えます。
難易度(合格率)
海事代理士試験の難易度はある程度高いものと考えられます。
しかし、例年の合格率は40%~50%となっていますのでそこまで狭き門ではありません。
ちなみに筆記試験は満点のうち6割以上の点数、なおかつ平均点以上を獲得した場合に合格となります。
また、口述試験の合格にも6割以上の点数が必要です。
海事代理士の合格率が高いのは行政書士や司法書士の資格保有者が受験するためと言われていますが、しっかりとした勉強を積めば誰にでも合格するチャンスはあります。
まとめ
海や船に関する仕事のひとつ「海事代理士」について解説してきました。
ご覧いただいた通り、海事代理士は行政書士や司法書士と似た役割を持つ仕事です。
海事に対する専門的な知識を必要とする分、平均的な年収が高いところは大きな特徴と言えるでしょう。
なお、海事代理士は誰でも受験できる資格なので、新しい資格を得たいと考えている方はぜひ視野に入れてみてください。