この記事では、気象ニュースなどで見聞きすることが多い「エルニーニョ現象」について解説していきます。
エルニーニョ現象とは海面の水温が例年より高くなる自然現象のことです。
発生する場所は太平洋の赤道域から南米大陸にかけた海域となりますが、その影響は世界中に及びます。
ここでは、そんなエルニーニョ現象が発生する原因や各国における影響を詳しくまとめました。
また、エルニーニョ現象と対をなすラニーニャ現象についても説明をしていますので、ぜひ最後までご覧になっていってください。
エルニーニョ現象とは?
エルニーニョ現象とは、太平洋の東部中央あたり(日付変更線付近)から南米西部沿岸および沖合いにかけた海域の海面温度が例年よりも高くなる現象のことです。
エルニーニョ現象は一度発生すると1年以上続き、南米だけでなく北米やオセアニアなど多くの国々に影響を及ぼします。
そんなエルニーニョ現象と深い関わりがあるとされるのが「ENSO(=南方振動)」です。
ENSOは太平洋の中央部(インドネシア付近)から太平洋東部にかけた熱帯域で起きる気象的振動を指し、気圧がシーソーのように連動することで海流や海面の水温に変化を与えます。
エルニーニョ現象はENSOの温暖局面により発生していると考えられていて、東太平洋側に長い期間の低気圧をもたらすところが特徴的です。
(反対に西太平洋側には高気圧をもたらす)
なお、エルニーニョ現象は単年で終わることが少なく、長い場合には複数年に渡ってその現象を維持します。
こうした影響で地域によっては異常気象で農作物が育たなかったり、水源の確保が難しくなったりするわけです。
エルニーニョの名前の由来
エルニーニョとはスペイン語で「神の子」「男の子」を意味する言葉です。
後述するラニーニャ現象はエルニーニョ現象と逆の気候をもたらすので、同言語で「ラニーニャ(女の子の意)」と名付けられています。
なお、そもそもエルニーニョという言葉はエクアドルやペルーあたりの南米沿岸部で発生する小規模な暖流を表すものでした。
しかし、同自然現象がより広範囲にまで影響力を持つようになり、世界各国で認知されることになったという経緯があります。
エルニーニョ現象の歴史
エルニーニョ現象という言葉はここ十数年で有名になりましたが、現象自体は少なくとも数千年前から発生していることが分かっています。
参考として、およそ1500年前に現在のペルー付近で発達した「モチェ文化」は、このエルニーニョ現象が原因で滅亡したのではないかという説があります。
ちなみにモチェ文化とはインカ帝国の前身とされるプレ・インカに含まれる文明・文化体系のひとつです。
当時としては高度な文明を持っていたとされますが、最近の地質調査などによってエルニーニョ現象が異常気象を引き起こし、結果として人々が暮らせなくなったのではないかという仮説の説得力が増しています。
また、1700年代後期に起きたヨーロッパでの飢饉も当時発生した大規模なエルニーニョ現象が原因と推測されているようです。(なお、1780年には日本でも大飢饉が発生している)
さらに1800年代後期では中国で1300万人以上が死亡する歴史的大飢饉も発生していますが、この際にもエルニーニョ現象が起きていたことが判明しています。
エルニーニョ現象の原因
エルニーニョ現象は「貿易風」が弱まることで発生すると考えられています。
貿易風とは赤道上を「東から西に向けて吹く風」のことです。
南米大陸の西部に位置する海域は貿易風の作用によって海流が生まれます。
しかし、貿易風が弱まると温度が上がった海水が西へ流れていかず、新たに冷たい海水も入り込んでこなくなってしまうわけです。
これを踏まえると、エルニーニョ現象の原因は「貿易風が弱まる」⇒「本来なら西側へ流れていく太平洋東部の暖流が動きづらくなる」⇒「海水温がより上昇し低気圧を生み出す」となりますが、なぜ貿易風が弱まるのか?については未だに分かっていません。
もちろん貿易風の強さは常に一定ではないものの、極端に弱まるとエルニーニョ現象が起きてしまうということを覚えておきましょう。
※逆に貿易風が強く吹きすぎると「ラニーニャ現象」を引き起こす
エルニーニョ現象による影響
ここではエルニーニョ現象が発生すると各地域にどんな影響があるのかを解説していきます。
気候への影響
エルニーニョ現象が起きると、まずペルーやエクアドルといった南米の国々の気候がいつもと変わります。
具体的には例年より気温が上がりづらくなったり、普段あまり雨が降らないところに積乱雲が発生したりします。
当然、こうした気候の変化が起きれば農作物に悪影響が及びますので、国内の経済にとっては良くありません。
また、エルニーニョ現象が起きると農作物だけでなく漁業にも悪い影響が出てきます。
エルニーニョ現象の発生要因とされる貿易風の弱まりが顕著に表れると、普段通りに海水が移動しなくなります。
表層の海水が移動しないと海の深いところに溜まった栄養素が海面付近まで上昇しませんので、結果的に「植物プランクトンの減少」と「それを食べる魚たちの減少」に繋がってしまうわけです。
さらに気候の変化は南米だけに留まらず、太平洋の西側でも異常気象が発生します。
こちらも具体的な例を挙げてみますが、深刻なのは太平洋西部の海水温低下とそれに伴う降水量の減少です。
海水の温度が冷たいままだと上昇気流が発生しづらくなるので、例年よりも雨の回数が減ります。
こうした影響を比較的ダイレクトに受けるのがインドネシアやフィリピンなどの東南アジア諸国とオーストラリアです。
長期的に雨が降らないと干ばつ状態になってしまい、農作物に多大なダメージを負ってしまいます。
経済的に豊かな国ではないと国内の消費すら賄えなくなるので、結果として昔の飢饉のようになってしまうわけです。
なお、上記のような気候の変化は程度に差があるもののヨーロッパや北米でも観測されています。
日本への影響
エルニーニョ現象が発生すると、日本では「冷夏」になると言われています。
実際にこれまでエルニーニョ現象が確認された年度は全体的に温度が低く、逆に冬は「暖冬」になるケースが多いようです。
また、日本の場合はエルニーニョ現象が起きることで夏における太平洋側の日照時間が短くなり、日本海側では降水量が増えるといったデータもあります。
どちらにしても例年とは異なる気候になるので、農業や漁業に対して良い影響は与えないと言えるでしょう。
ラニーニャ現象とは?
ラニーニャ現象とは、エルニーニョ現象と全く逆のことが起きる自然現象のことです。
赤道上を東から西へ流れる貿易風が例年より強まることで発生します。
ラニーニャ現象が発生した場合は太平洋の東側(南米大陸の西部)が高気圧になりやすく、太平洋の西側(東南アジアやオセアニア)が低気圧になりやすくなるといった変化を見せます。
日本の場合は夏場の気温が上がり、冬場の気温が下がるので例年よりも過ごしにくくなると言えるかもしれません。
まとめ
世界中の気候に影響を与える「エルニーニョ現象」について詳しく解説してきました。
ご覧いただいた通り、エルニーニョ現象は貿易風の弱まりによって発生します。
ただし、なぜ貿易風が極端に弱まるのか?という点は未だに分かっていません。
なお、簡単にまとめると「エルニーニョ現象が起きると南米の方で雨が降りやすくなり、東南アジアやオーストラリアでは降水量が減る」「日本は夏場の気温が下がる」となりますので、このポイントだけは覚えておきましょう。