この記事では、似ているようで実はまったく異なる特徴を持つ「海草」と「海藻」の違いについて解説していきます。
「海草」は種から成長する植物であり、「海藻」は胞子によって繁殖する藻類です。
一般的に食用として流通しているのは「海藻」の方で、食べられる「海草」というのはほとんどありません。
このように普段あまり気にすることがない「海草」と「海藻」の違いやそれぞれの種類、また藻場の役割などをここでは詳しくまとめました。
雑学として覚えておくだけでもタメになると思いますので、ぜひ最後までご覧になっていってください。
海草と海藻の違いって?
「海草」と「海藻」は同音異義語のひとつです。
2つを区別するために「海草」を「うみくさ」と呼ぶこともあります。
そんな「海草」と「海藻」ですが、日常会話などでは混同されることも少なくありません。
そこで、まずは「海草」と「海藻」の基本的な情報からご紹介していきたいと思います。
海草とは?
海草とは「種」から成長する種子植物です。
陸上に生育している植物と変わらず、その本体には葉・茎・根といった区別があります。
(海藻にはこうした区別がない)
また、根があるということはそこから栄養を吸収して成長することを意味します。
海草は「光合成」に加えて海底の土壌から栄養を吸い上げて成長するところが特徴的な部分です。
ちなみに海草は進化の過程で一度陸へと上がったものの、そこから適応する環境を求めて干潟や海中に戻ってきた植物と考えられています。
こうしたことからも地上の草木と変わらない生態を持っているのですが、根が張れることによって海藻では生育しづらい場所でも生きていけるのは海草の強みと言えるでしょう。
そんな海草がよく生育しているのは比較的浅い沿岸部(浅瀬)や干潟です。
海草は乾燥に弱いので基本的には海水に浸かっているところを好みます。
しかし、中には乾燥に強く潮が引いてしまう場所でも生きられる海草が存在します。
以上のような特徴を持つ海草は花を咲かせることで種子を作り、そこから繁殖していくことが一般的です。
ただし、地下茎を伸ばしてそこから株を増やす種類もあります。
海藻とは?
「海藻」は「藻類」なので、キノコなどと同じように「胞子」によって繁殖をおこないます。
なお、海草との大きな違いは「食用」として扱われているものが多いところです。
つまり、私たちが普段から口にしている海苔(ノリ)や昆布(コンブ)などは全て海藻の仲間ということになります。
対して海草というのは道に生えている草木と同じ植物なので、食用として扱われることはほぼありません。
また、海藻は葉・茎・根といった区別がなく、全体をもってひとつの個体を形成しています。
この2つが海草と異なる点と言えますので覚えておきましょう。
次に海藻ならではの特徴を見ていきます。
海藻は「緑藻類」「褐藻類」「紅藻類」の3つに分類されるところが特徴的な部分です。
生息する海の深さによって浴びる太陽光の量が異なり、それによって色が変わることから海藻は3つの種類に分けられています。
・緑藻類:もっとも浅瀬に生息する海藻で陸上の植物と似た構造を持つ
・褐藻類:主に赤褐色をした海藻、中にはヒジキのように黒色に近い種類もある
・紅藻類:もっとも深い場所に生息する海藻で赤・青・緑の3色が混ざることで紅色となる
このように3つの種類に分けられる海藻類ですが、その特徴には「栄養価が高い」といった点も含まれます。
特に海藻には食物繊維・鉄分・カルシウムといった栄養成分が多く含まれていて、昔から貴重な栄養源として食べられてきました。
ただし、海藻にはヨウ素も多く含まれているので食べ過ぎには注意が必要と言われています。
※ヨウ素には甲状腺ホルモン・新陳代謝の促進といった効果がありますが、摂取しすぎると逆に甲状腺の機能を低下させてしまいます。
海草と海藻の種類
それでは次に「海草」と「海藻」の主な種類について見ていきましょう。
主な海草
日本には約30種類の海草が分布していますが、中でもよく見かけるのは「アマモ属」の海草です。
アマモ属は細長い葉が特徴的で、日本では「アマモ」と「コアマモ」が特に有名な海草として知られています。
〇アマモ
オモダカ目アマモ科に属する海草で、とりわけ海草の中では有名。
アマモの群生地は「アマモ場」と呼ばれ、魚やイカなどの繁殖場として活用される。
関連記事:海のゆりかごの役割がある「アマモ」ってどんな海藻?
〇コアマモ
アマモよりも小型の海草で葉の幅が狭い。
日本だけでなくアジアやアフリカの海でも見かけることが多い。
〇マツバウミジクサ
葉の部分が松の葉のように細長く、ギザギザしているところが特徴的。
海岸でもかなり浅瀬に群生することが多い。
〇ウミショウブ
沖縄県沿岸に分布する海草で、陸上の植物である菖蒲に似ていることからその名前が付けられている。
なお、アオウミガメによる食害が懸念される海草の一種でもある。
〇リュウキュウスガモ
名前の通り沖縄県沿岸でよく見られる海草で、細長く幅の広い葉を持っている。
同じような海草としては「リュウキュウアマモ」も有名。
主な海藻
続いては主な海藻の種類をご紹介していきます。
海藻は食材としてもよく使われていますので、きっと見たことがある名前も多いはずです。
〇緑藻類
・ボタンアオサ
・アナアオサ
・ボウアオノリ
・カサノリ
・サボテングサ
緑藻類は一般的に海苔の原料となる海藻が多い。
地方や種類によっては採取した海藻をそのまま食用とすることもある。
〇褐藻類
・コンブ
・ヒジキ
・ホンダワラ
・モズク
・ワカメ
・ラッパモク
・フクロノリ
・カゴメノリ
緑藻類よりも褐色や黒に近い海藻が多いところが褐藻類の特徴。
また、食用として考えた場合には出汁で使うもの、食感が硬いものが多い。
〇紅藻類
・アサクサノリ
・テングサ
・カイメンソウ
・イバラノリ
・ナガガラガラ
紅藻類の代表格「アサクサノリ」は江戸時代以来から食用として扱われてきた海藻の一種。
ただし、現在は東京湾付近の開発などによって野生の個体群が減少し「絶滅危惧1類」となっている。
他にも心太や寒天の原料となる「テングサ」が紅藻類の主な種類に挙げられる。
海草・海藻の役割
海草や海藻が多く群生している場所を「藻場」と呼びますが、藻場には海の環境を整える役割があります。
藻場の役割について
・生物多様性の維持
・水質の浄化作用
・護岸作用
・海中の環境学習
海草ではアマモ、海藻であればコンブやワカメなどが群生する場所は、魚類や甲殻類の繁殖場としての役目があります。
藻場に卵を産み付けることで小型の魚などは繁殖をおこない、またカニ・エビなどは幼体の生育に藻場の環境を利用しているわけです。
なお、こうした理由から海草のアマモが茂る場所は「海のゆりかご」とも呼ばれていますが、アマモを含む藻場全体を同様に表現することもあります。
ちなみに海の生物たちが生活する上で藻場の存在は欠かせないため、日本の沿岸部では藻場を増やす努力もおこなわれています。
さらに藻場には水質を向上させる役割もあり、キレイな海を保つためには海草・海藻の群生地が必要です。
そのほか海草が生い茂る場所は海底の土壌が固まりやすく、潮流を抑え護岸作用に繋がるとも言われています。
また、海がキレイに保たれることで環境学習の場が守られているといった点も大事なポイントです。
以上のような理由から藻場は海洋生物と人間の両方にとって大事な存在となっています。
まとめ
普段はあまり気に掛けることがない「海草」と「海藻」の違いについて解説してきました。
ご覧いただいたように海草と海藻はまったく違うものです。
特に「種子植物」と「藻類」の違い、また食用として扱われているかどうかといった部分が大きな相違点として挙げられます。
なお、食卓に上がるようなものは「海藻」と覚えておくと区別しやすいかもしれませんので、ぜひ参考にしてみてください。