この記事では海の水質浄化や温暖化抑制に役立っている「アマモ」についてご紹介していきます。
アマモが群生する「アマモ場」は「海のゆりかご」と呼ばれ、魚たちの繁殖場や稚魚の育成場としても非常に大切な場所です。
そんなアマモは自然環境下において年々減少傾向にあるのですが、現在日本の沿岸部ではアマモを再生させるプロジェクトが各地でおこなわれています。
そこで、ここでは「アマモの特徴」「アマモの役割」「アマモを増やす活動」などに関する情報を詳しくまとめてみました。
海の中だけでなく地上の環境においても重大な役割を果たしているアマモについて、ぜひこの機会に理解を深めていってみてください。
アマモとはどんな海草?
「アマモ(甘藻)」は日本各地に分布する多年生の種子植物です。
一般的な海藻のように胞子で増える植物ではなく、自ら蒔いた種によって株を増やすところが特徴のひとつに挙げられます。
また、北半球の温帯から亜寒帯まで幅広い海域に自生している点もアマモの特性です。
比較的浅い海(水深1m~3mほど)の砂泥地層に生えるアマモはイネ科の植物であり、生長すると100cmくらいまで伸びることもあります。
そんなアマモは春先になると草体の一部が「繁殖株」となり白い花を咲かせますが、ここで作られた種子が夏頃になると自然的に海底へと蒔かれるわけです。
なお、アマモの種子が発芽する際には一定の期間「淡水にさらされることが必要」となっています。
そのため、淡水が流れ込む河口付近にアマモの群生は出来やすいとのことです。
こうした特徴を持つアマモは、海の中で以下のような役割を担っています。
〇アマモとは?
・赤潮の原因物質(リンや窒素)を吸収し海水を浄化する
・海水魚が産卵する場所、稚魚や稚貝が育つ場所としての役目
・光合成によって二酸化炭素を吸収(温暖化の抑制)
・海底の土が固定されることで海岸の保全に役立つ(大きな波の抑制)
・生物の多様性を維持する
ご覧の通りアマモは海の中だけでなく、地上の環境にも影響を与えています。
また、アマモはキレイな海でないと育たないため、海岸の指標生物としても知られる植物です。
ちなみに沿岸部の開発などによって海水が汚染された海域ではアマモの数が減ってきているのですが、その減少を食い止めるために再生活動をおこなっている団体も少なくありません。
アマモの名前の由来
「アマモ(甘藻)」は「茎の部分を噛むと微かに甘い味がする」という理由からその名前が付けられたとされています。
また、アマモには「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ(龍宮の乙姫の元結の切り外し)」といった別名もあるのですが、これは海岸に打ち上げられた姿がそのように見えることに由来しているそうです。
ちなみに「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ」は植物の中でもっとも長い名前となっていますが、実際にその名前を使うことや聞く機会はほとんどないと言えるでしょう。
なお、昔はアマモのことを「藻塩草(もしおぐさ)」とも呼んでいました。
これは海草を焼くことで塩を取り出す「藻塩焼き」にアマモが使われていたことに由来しますが、アマモ以外の海草や海藻も「藻塩草」として扱われています。
そのほか、アマモの名前としては「eel grass」といった英名も付けられています。
直訳すると「ウナギの草」となりますが、その見た目が細長いことからこうした名前が付けられたようです。
アマモの役割・効果
それでは次にアマモの具体的な役割や効果を見ていきましょう。
アマモは沿岸部の浅瀬に生育する植物であり、一時生産者としての役割を担っています。
アマモが群生する場所のことを「アマモ場」と呼びますが、稚魚や稚貝などの小型海洋生物が成長するまで外敵から身を守るために使われているのがアマモ場です。
さらにアマモ場には二酸化炭素を吸収し酸素を作り出すといった役目もあり、水質を改善する働きもおこなっています。
海をきれいにする
アマモは海中のリンや窒素といった成分を吸収することで赤潮の原因となるプランクトンの大量増殖を抑えてくれています。
海中に必要以上のリンや窒素などが増えると富栄養化が促進されプランクトンが大量に生まれてしまうのですが、アマモはそのバランスを整える役割を果たしてくれているわけです。
また、前述の通りアマモは二酸化炭素を酸素に変換してくれます。
これによって海水がキレイになるといった好循環を生み出しているわけですが、アマモが二酸化炭素を吸収することは地球温暖化抑制にも大きな効果を発揮しています。
なお、海中に浸透した二酸化炭素由来の炭素はブルーカーボンと呼ばれていて、近年ではこの炭素を吸収するアマモなどの「ブルーカーボン生態系」を保護・再生する動きが強まっているとのことです。
生き物を守る
沿岸部の浅瀬に広がるアマモ場は魚やイカなどが卵を産む場所として活用されています。
アマモ場で生まれた稚魚などはアマモに守られながら成長していきますが、こうしたことからアマモ場は「海のゆりかご」と呼ばれているわけです。
また、アマモ場は小型のハギやハゼなどが外敵や潮流から身を守るための場としても使われています。
中には波のうねりによって流されてしまわないようアマモをくわえて寝る魚もいるくらいなのですが、これだけでもアマモが魚たちにとってどれだけ重要な場所なのかが分かるはずです。
ちなみにアマモ自体を主なエサとして食べる生物は少なく、その種類はハクチョウやジュゴンなどに限定されています。
なお、枯れたアマモは微生物によって分解され、それが貝類などのエサとなり、貝類などが魚のエサとなることで海中での生態系が維持されているわけです。
アマモを増やすには?
現在、日本では全国の沿岸部でアマモの再生プロジェクトがおこなわれています。
ちなみにアマモを増やすためには、まず以下のような地理的条件が必要です。
・海底がしっかりとしているところ
・大きな波がやってこないところ
・アマモの生育に必要な光が十分に当たるところ
アマモを植えても簡単には抜けないところを選び、さらに光合成に必要な光が当たる場所を探すというのがアマモ場の再生には欠かせません。
こうしてアマモ場として適している場所を見つけたら、次にいくつかの方法でアマモの養殖をスタートさせていきます。
① アマモの種を直に海へ蒔く方法
② アマモの種を地上で発芽させた上で海底へ植える方法
③ すでにあるアマモ場から採取したアマモを別の海に移植する方法
アマモ場を作る場所やそのときの種の数量・状態によって上記の方法が使い分けられています。
なお、②の場合は「春先になったら海にアマモの苗を植え、種が出来上がる夏頃に種子を採取したら秋口に苗床を作り発芽させる」というのが基本的な手順です。
海岸ごとに立ち上げられているアマモ再生団体では②の方法を取るところが多いようですが、これだと個人でも参加できるケースがあります。
アマモ場の再生現場に立ち会ってみたいという方は、ぜひ近場の海でアマモ再生プロジェクトをおこなっている団体のHPなどをご覧になってみてください。
水環境をよくする機能がある「#アマモ」を増やす実験を横浜みなとみらいの臨港パーク前で行っています。
— 国土交通省 関東地方整備局 港湾空港部 (@mlit_kanto_port) June 22, 2020
昨年11月30日に種まきを行って半年後の今年6月16日の水中の様子です。
魚たちの産卵場、子育て場にもなりますので今後が楽しみです。 pic.twitter.com/QLo4fcReJL
まとめ
「海のゆりかご」とも呼ばれるアマモに関する情報をご紹介してきました。
ご覧いただいたようにアマモは海中だけでなく地上の環境にも良い影響を与える植物として注目を集めています。
沿岸部の開発などによってアマモ場は減少傾向にありますが、現在はそんなアマモ場を復活させる動きが強まっていますので、興味がある方はぜひ該当する団体の活動をチェックしてみてください。