この記事では「海洋保護区」に関する情報を詳しくご紹介していきます。
海洋保護区とは海洋環境を守るために国や地方自治体が指定した区域のことです。
海から得られる食料や資源を持続可能な形で保全していく取り組みの一環で、日本では2011年に初めての海洋保護区が設定されました。
ここでは、そんな海洋保護区の基本的な概要や効果、問題点などを分かりやすくまとめました。
海洋保護区がどういった役割を果たしているのか?また、海洋保護区のデメリットとは何か?といった部分を知りたい方は、ぜひこちらの内容を参考にしていってください。
海洋保護区とは?
「海洋保護区」とは国や自治体が海洋保全を目的として指定した区域のことを指します。
四方を海で囲まれた日本にとって、海洋保護区設置による環境保全は非常に重要なポイントです。
なお、海洋保護区には「海域公園地区」「鳥獣保護区特別保護地区」「海中特別地区」「保護水面」といった種類があり、それぞれ海との関連性が強い環境や生物を守るために設けられています。
近年、様々な自然環境や生物から享受できる恩恵のことを「生態系サービス」と呼ぶようになりましたが、日本は海の生物系サービスに恵まれている国です。
たとえば1年を通して美味しい魚や海産物が食べられるというのは生態系サービスのひとつに含まれます。
また、九州や沖縄などの沿岸部、離島といった場所ではダイビングやシュノーケリングなどのレジャーを楽しめますが、そういった観光資源となる自然環境が整っているのも生態系サービスのおかげです。
そういった日本ならではの魅力を守るためには、海洋汚染や乱獲を防ぐための対策が必要となります。
海洋保護区の設置には、こうした海洋保全への役割があるということです。
ちなみに漁業や観光業の関係者からすると「海洋保護区の設置は活動の幅を狭める」といった印象もあるようですが、むしろ将来に渡って漁業や観光業を続けるには今から海の環境を守っておかなければなりません。
現在のような環境開発を続けていれば日本の生態系サービスは枯渇してしまいますので、今の世代で海洋保全の取り組みを強化していく必要があるわけです。
海洋保護区のメリット・効果
ここからは海洋保護区のメリットや効果について解説していきましょう。
海洋保護区には様々なものを守る役割があり、海の環境を守ることは人々の生活と安心を守ることに繋がっていきます。
海洋生物の生活環境を守る
海洋保護区のメリットとしては、まず「海洋生物」の生活環境が守られるといった点が挙げられます。
海洋保護区という制度は日本だけでなく世界でも実施されているのですが、日本と同じ島国であるパラオでは海洋保護区を設けたことにより2年ほどで魚の数が2~5倍に増えました。
魚は別種の海洋生物のエサにもなりますので、海全体の生態系が栄えるためには欠かせない要因と言えます。
また、ウミガメなどの貴重な生物が産卵する場所を守るのも海洋保護区の役割です。
日本にも絶滅危惧種に指定されている海洋生物がいますので、そういった生き物を守るためにも保護区の設置は意味があります。
海鳥の営巣地を守る
日本で繁殖する主要な海鳥は10種類ほどと言われていますが、この中には絶滅危惧種に指定されているエトピリカやウミガラスといった鳥類も含まれています。
海鳥や渡り鳥は海の近くに営巣地を作って繁殖活動をおこないますが、こうした繁殖場所が汚染・開発されることで個体数を減らしている鳥たちが多いわけです。
海洋保護区の枠組みには「鳥獣保護区」といったものも含まれていますので、海鳥の営巣地を守るためにも保護区の設置は必要と言えます。
津波や高波から内陸を守る
沿岸部に生息するサンゴ礁や海底の砂は天然の防波堤となって津波や高波の威力を抑えてくれています。
また、砂浜の面積が広ければそれだけ波のパワーが収まりやすくなりますが、そういった護岸活動というのも海洋保全においては重要なポイントです。
近年、日本では砂浜の「砂」が減少して海岸の面積が失われる「海岸侵食」という問題が深刻化しています。
海岸侵食は国土を狭める原因ともなりますので、日本にとっては海岸線を守ることが急務と言えるわけです。
もちろん海岸の幅が狭くなれば津波や高波の被害も増えてしまうため、海洋保護区を設けて保全に努めることが大事となってきます。
漁業・水産加工業の未来を守る
先ほども触れましたが海洋保護区を設けるメリットには「魚が増える」といった点が含まれます。
魚が増えれば海が豊かになり、結果として漁業や水産加工業の未来を守ることに繋がるわけです。
漁業や水産加工業が廃れてしまうと当然「失業率」もアップしますので、海洋保護区は就労率を維持するためにも必要なことと言えます。
海に関する文化と芸術を守る
日本には古くから海をテーマとした文化や芸術があります。
たとえば琉球時代から続く沖縄の音楽、日本各地の沿岸部で伝承される神話、またはそれらをモチーフとした絵画などは日本特有の文化・芸術です。
海洋保護区の設置は「いま見ることが出来る海の風景や環境を後世に引き継ぐための取り組み」でもあり、その効果が期待されています。
海洋保護区のデメリット・問題点
続いては海洋保護区のデメリットや問題点を見ていきましょう。
日本は1992年に開催された「地球サミット」で、生物の多様性を保全するための取り組み「生物多様性条約」に加盟しています。
なお、日本は条約の中で「沿岸域・海域の少なくとも10%は保護区に制定する」といった目標を掲げていたのですが、なかなか目標を達成することができませんでした。
その理由や保護区のデメリット・問題点を分かりやすくまとめてみました。
漁業関係者からの不満
問題点のひとつとしては、海洋保護区に対する認識不足によって漁業関係者から不満が出るといった点が挙げられます。
漁業関係者には「漁獲量や漁法を制限されるのではないか」といった懸念があり、そうした部分で話し合いが進まない地域もあるようです。
場所の選定や保護計画が不明瞭
海洋保護区という制度には選定場所に対する明確な基準がありません。
そのため、保護区を選ぶ段階から時間が掛かるといったデメリットがあります。
また、各自治体が考える保護計画に不明瞭な点が多いというのも問題のひとつです。
つまり計画の見通しが曖昧なため、地域住民が納得しないといったケースもあるということです。
資金不足による問題
海洋保護区を設けても、地方自治体によっては資金不足で管理計画が上手く遂行されないといった問題があります。
また、人口が少ない自治体では資金不足と同じく人材不足によって管理・運営ができないなどの問題があるようです。
せっかく海洋保護区として認めても手付かずの状態になってしまうところがあるというのは大きなデメリットと言えるでしょう。
日本の海洋保護区の場所は?
日本では従来からある自然公園や自然海浜保全地区などを中心に海洋保護区を設置しています。
また、各自治体と漁業団体が指定する区域も海洋保護区として扱われる場所のひとつです。
そのほか海洋底資源などを守るために設置されるケースもありますが、具体的には「小笠原海溝周辺」「マリアナ海嶺周辺」「西七島海嶺周辺」といった海域が海洋保護区に指定されています。
まとめ
海洋保全のために設置されている「海洋保護区」について解説してきました。
ご覧いただいたように海洋保護区の設置には様々なメリットがあります。
海の環境や生態系を守るためには必要な対策と言えますが、保護区設置にはまだまだ問題点も多いというのが現状です。
日本人としてはまず海洋保護区というものを知ることが大事な一歩なので、ぜひご紹介した内容を覚えておいてください。