この記事では神秘的な見た目を特徴とする「クリオネ」の生態や特徴について解説していきます。
クリオネは「流氷の天使」「氷の妖精」といった素敵なあだ名で呼ばれることも多い海の生き物です。
半透明な身体には翼のような足が付いていて、その翼足をパタパタと動かして遊泳する姿に癒しを感じる方も少なくないと思います。
しかし、そんな可愛らしい姿とは対照的なのがクリオネの捕食シーンです。
クリオネは特殊なエサの摂り方をするのですが、ここではそんなクリオネの捕食方法も詳しくまとめました。
また、ほかにも「クリオネの身体が半透明である理由」や「クリオネの繁殖方法」、世界に5種類しかいないと言われている「クリオネの種類」についても紹介していきます。
クリオネがどんな生き物なのか興味があるという方は、ぜひこちらの内容を最後までご覧になっていってください。
クリオネとは?
独特な見た目をしている「クリオネ」ですが、そもそもどういった生き物に分類されるのか?という疑問があると思います。
クリオネは「貝」の一種で、生物学上は「腹足綱裸殻翼足類・ハダカカメガイ科」に属する生き物です。
貝というと一般的には硬い殻に覆われているイメージがありますが、クリオネは成長するにつれて殻を手放し本体のまま生活するようになります。
そんなクリオネの名前はギリシャ神話に登場する女神「クレイオ」に由来するものです。
ちなみに「Clione(クリオネ)」は学術名で、和名では種類によって「ハダカカメガイ」「ダルマハダカカメガイ」などと呼ばれています。
クリオネの種類については後ほど詳しく説明していきますが、私たちが映像などでよく見るクリオネは「ハダカカメガイ」です。
体長は1~3センチほどで、北極や南極といった冷たい海域の水深200~1000メートルあたりに生息しています。
もちろん北極や南極といった極圏以外にも、北海道のような寒冷な地域であればクリオネは生息可能です。
しかし、2017年にクリオネの新種が「富山湾」で見つかったことにより、これまで考えられていたクリオネの生息域がさらに広がる結果となっています。
クリオネの種類
現在のところクリオネの種類は全部で「5種類」です。
北極や南極付近の海域以外では北海道近くのオホーツク海でも観測されていますが、生息するエリアによってクリオネの種類やサイズが若干異なります。
〇ハダカカメガイ
先ほども少し触れましたが、私たちがよく映像で見るクリオネはこちらの「ハダカカメガイ」です。
水族館でも展示されているので実際に見たことがある人も多いと思います。
ハダカカメガイは体長1~3センチほどで、身体は頭部と腹部に分かれながら全体的に円筒形の見た目をしています。
生まれたばかりのころは植物プランクトンをエサとしますが、成長すると自分よりも小さな生物を捕食するようになるというのが特徴的な部分です。(つまりクリオネは肉食性)
〇ダルマハダカカメガイ
2016年にオホーツク海で発見された新種のクリオネが「ダルマハダカカメガイ」です。
体長8ミリ程度で、クリオネの中でも小型の種類に分類されています。
ちなみにダルマハダカカメガイは100年ぶりに発見されたクリオネの新種で、ダルマのように丸みを帯びたフォルムからその名前が付けられました。
また、オホーツク海で発見されたこともあり、学術名は「Clione okhotensis(クリオネオホーテンシス)」となっています。
〇ダイオウハダカカメガイ
「ダイオウハダカカメガイ」は主に北極や北大西洋で見かけるクリオネで、最大10センチほどまで成長する大型種として知られています。
通常のハダカカメガイが強大化したような見た目をしていますが、遺伝子構造が異なるため別種として扱われています。
〇ナンキョクハダカカメガイ
名前の通り南極に生息しているのが「ナンキョクハダカカメガイ」です。
こちらのナンキョクハダカカメガイには毒があり、その毒を利用しようとする別種の生物が共生することもあります。
なお、ナンキョクハダカカメガイが見つかったのは1900年代初頭ですが、いまだに分かっていないことが数多くあるようです。
〇富山湾の新種
2017年に富山湾で発見された新種のクリオネにはまだ正式な名称が付いていません。(2023年2月時点)
こちらの新種は体長が5ミリ程度しかないので、クリオネの中ではもっとも小さい種類となります。
なお、これまで北半球では「クリオネが住める限界はオホーツク海あたりまで」と考えられていました。
しかし、富山湾でクリオネの新種が発見されたことにより、生息可能と見られるエリアが一気に広がる結果となっています。
クリオネの特徴・生態
ここからはクリオネの主な特徴や生態をご紹介していきます。
クリオネの身体が透明な理由
クリオネが透明な見た目をしているのは、身体にタンパク質を溜め込んでいるからです。
貝類のような軟体動物はタンパク質で身体が構成されていて、タンパク質は純度が高いほど透明度が増すように出来ています。
非常に冷たい海域で生活するクリオネは生きるためのエネルギーとしてタンパク質を溜め込まなければいけないので、結果的に見た目が透明化しているということです。
ちなみにクリオネが生息する深海には「余分な色素を排除することで無駄なエネルギー消費を抑える」「透明になることで外敵から身を守る」といった目的で身体を透明に進化させてきた生物もいます。
クリオネは1年間の絶食に耐えられる
身体にタンパク質を溜め込むという性質を持つクリオネですが、実はもの凄くエネルギー効率の良い生き物でもあります。
というのも、クリオネは半年から1年に1回エサを捕食すれば、あとは食事をしなくても生きていけます。
1年間の絶食に耐えられる生き物は珍しいのですが、そんなクリオネの主なエサは近縁種にあたる「ミジンウキマイマイ」という生物です。
〇クリオネの繁殖方法について
クリオネは雌雄同体の生き物で、卵巣が発達した個体と精巣が発達した個体同士で交尾をおこない産卵をします。
なお、クリオネは交尾から数時間ほどで受精が完了し、すぐに卵を海中に放出するところが特徴的な部分です。
クリオネの捕食方法
クリオネの捕食方法はその見た目とのギャップが激しいことで有名です。
クリオネの頭部には「バッカルコーン」と呼ばれる6本の触手が収納されていて、エサを見つけると頭部からその触手が伸びてきます。
主なエサとなるミジンウキマイマイを捕食するときはバッカルコーンで相手を捕まえ、触手を突き立てて養分を吸い取りますが、その姿は普段の可愛らしい見た目と大きくかけ離れているのでショックを受ける方もいるかもしれません。
クリオネの寿命
自然環境下でのクリオネの寿命はおよそ2~3年と考えられています。
前述の通りクリオネは1年に1回エネルギーを補給すれば生きていけますが、その寿命はあまり長くないようです。
ちなみに人工飼育下の寿命はだいたい1年くらいです。
これはエサとなるミジンウキマイマイの継続的な入手が困難であり、さらにクリオネが人工的なエサを食べないことが理由とされています。
(つまり水族館にいるクリオネは常に絶食状態ということになる)
まとめ
「流氷の天使」とも呼ばれるクリオネの生態や特徴について詳しくご紹介してきました。
ご覧いただいたようにクリオネは可愛らしい見た目だけでなく、独特な性質を持つ生き物であることが分かったかと思います。
特にクリオネの捕食方法や捕食シーンは意外性に満ちていて、初見では大半の方が驚くはずです。
クリオネは北海道の水族館を中心に全国のメジャーな水族館で飼育されていますので、興味がある方はぜひ足を運んでみてください。