
ここでは日本の南方から流れてくる「黒潮」についてご紹介していきます。
黒潮は「日本海流」とも呼ばれる海流の一種です。
パプアニューギニアやインドネシアといった南国の海域で発生する黒潮は、偏西風や貿易風の影響によって日本近海へと北上してきます。
北上してきた黒潮は日本の太平洋側を辿り、やがて親潮とぶつかって北太平洋海流へと変化していくわけです。
しかし、ときに黒潮は本来のルートから外れることもあります。
これを「黒潮大蛇行」と呼ぶのですが、この記事では黒潮が蛇行する要因などもまとめました。
こちらをご覧いただけば「黒潮とは何か?」「黒潮大蛇行とはどういったものなのか?」が分かりますので、ぜひ参考にしてみてください。
黒潮(日本海流)とは?
「黒潮」とは東シナ海やフィリピン海から北上し、日本の太平洋側を沿う形で流れる「海流」のことです。
(黒潮=日本海流とも表される)
北上してきた黒潮は千葉県・房総半島近海、または宮城県・三陸海岸あたりで親潮(北から南へと移動する海流)とぶつかり、その後「北太平洋海流」として東側へ流れていきます。
ちなみに黒潮と親潮がぶつかる海域は魚が生息・成長するのに適した環境となるため「世界三大漁場」と呼ばれています。
また、黒潮は「メキシコ湾流」「南極環流」と並び、非常に大規模な海流として有名です。
そんな黒潮は日本よりも南の海域で発生する暖流の一種で、海水中に含まれるプランクトンの量が少ないため透明度が高いという特徴を持っています。
なお、太陽光を反射するプランクトンが少ないと海が青黒く見えますが、これが「黒潮」という名前の由来です。
黒潮は日本の南方からマグロやカツオなどを運んできてくれる海流であり、そのほか亜熱帯性・熱帯性の魚の分布を広げる役割も担っています。
黒潮の特徴
続いては黒潮の特徴を見ていきましょう。
黒潮はどこからやってくるのか
黒潮の元となるのはパプアニューギニアやインドネシア、マレーシアなどの海域です。
この海域は「コーラルトライアングル」とも呼ばれる場所で、生物多様性が高いことで知られています。
また、亜熱帯地域では雨が少なく蒸発する海水の量が多いため、必然的に塩分濃度が増すといった特徴もあります。
黒潮のプランクトン
黒潮は単純な塩分濃度こそ高いものの、魚たちの栄養となる「栄養塩」は多くありません。
栄養塩が少ない海水中ではプランクトンの増殖が抑えられるため、結果的に濁りのない海となっていきます。
(南国の海がキレイに見えるのもこうした理由からです)
ちなみに暖かい海を好むカツオは日本の南方で生まれ、エサを求めて北上してきます。
春になり日本南部から北上してきたカツオを「初鰹(はつがつお)」、夏から秋にかけて北上を終え南下してくるカツオを「戻り鰹」と呼びますが、日本でこうした魚を食べられるのは黒潮という海流があるおかげです。
黒潮の大きさと流速
黒潮は幅が100kmほどまで広がる海流で、その時速はおよそ7kmとされています。
前述の通り「南極環流」「メキシコ湾流」と比べられるほど大規模な海流として知られています。
黒潮の温度
黒潮の温度は夏の時期で30℃ほどです。
また、冬の時期でも20℃ほどの温度を保っているため、非常に暖かい海水であることが分かります。
黒潮の流れ
日本の南方で発生する黒潮は太平洋側沿岸を北上し、北から南下してくる親潮とぶつかり北太平洋海流へと移動していきます。
北太平洋海流としてアメリカ側へ移動した海流はやがてカリフォルニア海流となり、そのあと北赤道海流に乗ってまた元の黒潮発生海域まで戻ってきます。
こうした一連の流れを見ても分かる通り、黒潮は太平洋の海洋循環に欠かせない存在です。
しかし、ときに黒潮は本来のルートから外れたような動きをすることもあります。
その動きを「黒潮大蛇行」と呼ぶのですが、次に黒潮が蛇行する要因などを見ていきましょう。
黒潮大蛇行について
黒潮大蛇行とは、本来は房総半島や三陸海岸まで到達する黒潮が「紀伊半島」や「遠州灘」あたりで南へと逸れる現象のことを指します。
先ほども触れたように黒潮はカツオなどの魚たちを連れてきてくれる海流です。
そのため、黒潮が蛇行してしまうと本州中部エリアから東北エリアにかけての漁獲量に影響が出てしまうわけです。
また、本来とは異なる海流が発生すると水位にも変化が見られ、予測外の浸水被害などに繋がる恐れがあります。
ちなみに黒潮大蛇行のような現象が起こる海流は他になく、かつては異常現象として捉えられていました。
しかし、最新の研究では季節風や海底の地理的要因により黒潮大蛇行が引き起こされることが分かっていて「蛇行したルートも実は黒潮の正規ルートである」と結論付けられています。
なお、紀伊半島や遠州灘あたりで南に逸れた黒潮は半時計回りで本来のルートに戻ることが大半です。
(蛇行した黒潮は房総半島付近へと戻ってきて親潮とぶつかる)
蛇行型の黒潮には大小異なる規模のものが存在し、中でも紀伊半島付近からの離れ具合が大きいものを「大蛇行」と呼びます。
これまでに観測された黒潮大蛇行は6回となりますが、それぞれの蛇行期間はバラバラです。
黒潮大蛇行の頻度と過去の事例
1回目:1975年8月~1980年3月
2回目:1981年11月~1984年5月
3回目:1986年12月~1988年7月
4回目:1989年12月~1990年12月
5回目:2004年7月~2005年8月
6回目:2017年8月~継続中(2023年4月時点)
こちらは過去に発生した黒潮大蛇行の事例ですが、2023年4月時点では過去最長期間の蛇行が観測されています。
黒潮大蛇行の発生メカニズムはある程度分かっているものの、長期化する原因については未だ解明されていない部分が多いようです。
黒潮と親潮の違い
日本近海を流れる海流のうち、黒潮と並び有名な海流が「親潮」です。
親潮は千島海流とも呼ばれ、日本の北方から南下してきます。
黒潮と親潮の大きな違いは「栄養塩の多さ」です。
前述の通り黒潮はプランクトンの増殖に必要な栄養塩が少ないわけですが、親潮は栄養塩が多くプランクトンの数も豊富です。
そのため、魚を育てる上で最適な環境を形成しています。
ちなみにプランクトンが多い親潮の見た目は緑がかっていて、南方の黒潮のように澄んではいません。
また、親潮の塩分濃度は黒潮より低く、これにより親潮は「あまい海水」で黒潮は「からい海水」と表現されることもあります。
黒潮と赤潮の違い
ここまで説明してきた通り黒潮とは「海流」のことです。
対して赤潮とは、プランクトンなどの微小な生物が異常増殖することによって海の色が変わる「自然現象」のことを指します。
そのため、黒潮と赤潮は意味自体がまったく異なるものと言えるわけです。
ちなみにプランクトンの異常増殖により赤潮が発生すると、海中が栄養過多の状態となり、さらには死滅したプランクトンが魚のエラなどに詰まり不要な被害を生み出します。
(赤潮が発生すると海自体の臭気もひどくなる)
こうしたことから赤潮は漁業関係者たちから嫌われています。
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まとめ
日本近海を流れる「黒潮」に関する情報を色々とご紹介してきました。
ご覧いただいたように黒潮は日本の南側から北上し、マグロやカツオといった魚たちを連れてくる役割を果たしています。
太平洋側で様々な魚が獲れるのは黒潮のおかげとも言えますが、ときおり発生する黒潮大蛇行によって漁業の成果が変わることも覚えておきましょう。