この記事では高級食材のひとつとして知られる「伊勢海老(イセエビ)」の特徴や生態について解説していきます。
海に生息する数多くのエビ種の中でも古くから食用として扱われてきたものが伊勢海老です。
一説には「海老」という名称の語源ともなった種類と考えられていますが、それほど伊勢海老は日本人にとって身近な存在と言えます。
ここでは、そんな伊勢海老の生息地や旬の時期、また生涯で脱皮する回数や寿命に関する情報を詳しくまとめてみました。
普段口にしている伊勢海老がどういった生態を持っているのか気になる方は、ぜひこちらの内容を最後までご覧になっていってください。
伊勢海老とは?名前の由来は?
伊勢海老は「エビ上目イセエビ下目イセエビ科イセエビ属」に分類されるエビです。
正式な伊勢海老として認められるのは本種の1種類のみとなりますが、イセエビ科には「8属49種」のエビが存在していて、そのうちいくつかの種類をまとめて伊勢海老とする場合もあるそうです。
(水産物の流通・市場において便宜上「伊勢海老」と名乗る輸入種もあるということ)
そんな伊勢海老は体長が20~30cm、重量が1kgくらいまで成長するエビで、昔から日本では食用として扱われてきました。
見た目としては体表が赤褐色の殻で覆われていて、長く硬い棒状の触角を持っているところが特徴的な部分となります。
ちなみにこの特徴的な触角は伊勢海老の市場価値に繋がる部位であり、触角が折れている(欠損している)と卸価格が下がるため水揚げ時には細心の注意が払われています。
※触角があった方が見た目の豪華さに繋がり市場価値が高くなる。また、伊勢海老の第二触角には「発声器官」が存在し、陸上では「ギーギー」といった威嚇音を発する。
名前の由来
伊勢海老という名前の由来にはいくつかの説がありますが、初めてその名前が文献に登場したのは「言継卿記(1566年)」の中でのことです。
名前の由来として有力なのは「現在の伊勢(三重県)でよく獲れていた」という説ですが、伊勢海老の殻や触角が当時の鎧や武具を連想させ「威勢(いせい)がいい」ことからその名が付けられた説もあります。
また、伊勢海老の多くは磯に生息することから「いそえび」⇒「いせえび」と転じたという説もあるようです。
ちなみに1600年代に書かれた「日本永代蔵(1688年)」「世間胸算用(1692年)」には、いまと同じように伊勢海老が高級食材として扱われていたことが記されています。
(当時の文献には「伊勢ゑび」と書かれていた模様)
なお、近年では三重県の伊勢志摩だけでなく千葉県の外房や神奈川県の鎌倉でも多くの伊勢海老が漁獲されていて、「外房イセエビ」や「鎌倉海老」といった別称で流通しているケースもあります。
伊勢海老の旬や時期
伊勢海老の旬は秋から冬にかけての時期です。
伊勢海老は産地によって獲っていい時期が異なりますが、だいたい9月前後が解禁の時期となりますので9月~翌3月あたりが伊勢海老の旬と言えるでしょう。
なお、もっとも解禁時期が早いのは千葉県であり、8月から伊勢海老の漁をおこなっています。
(伊勢海老の主要産地である三重県は一部を除き10月から漁が解禁される)
伊勢海老の特徴・生態
続いて、伊勢海老の特徴や生態をより詳しくご紹介していきます。
「伊勢海老はどんなところに生息しているのか?」「伊勢海老はどれくらい生きるのか?」などの疑問を解消していきますので、ぜひご覧になっていってください。
生息地
伊勢海老は海水性のエビです。
主に水深が浅い「岩礁」の近くを棲み処として生活を送っています。
生息地は茨城県より南側の太平洋側であり、日本海側で伊勢海老が獲れることはほぼありません。
また、台湾の太平洋側や朝鮮半島の南部でも同種のエビが獲れることが分かっています。
なお、以前は西大西洋やインド洋でも伊勢海老が獲れるとされていましたが、現在それらのエビは別種のものとして扱われています。
産地として有名なのは語源となった伊勢志摩(三重県)となりますが、近年では海水温の上昇が影響しているせいか外房(千葉県)でもよく獲れるようになり、漁獲量ナンバーワンの座を両県で争っている状況です。
伊勢海老の食性やエサ
伊勢海老は肉食性の生き物であり、ウニや貝類などを主なエサとしています。
ただし、海藻を食べることも確認されているので、広義では雑食性と言えるかもしれません。
そんな伊勢海老の天敵にはイシダイ・タコ・サメなどが挙げられますが、一部の個体はタコを捕食するウツボと共生して身を守ることもあるようです。
伊勢海老の繁殖と成長
伊勢海老の繁殖期は5月~8月ごろです。
交尾後のメスは同時期に産卵をおこない、卵を守りながら孵化するまでの期間を過ごします。
ちなみに孵化したばかりの伊勢海老の幼生は半透明な姿をしていて、普段よく見る伊勢海老とは似ても似つかない形をしています。
これを「フィロソーマ幼生」と呼び、だいたい300日くらいかけて成体へと成長していくとのことです。
脱皮の回数
伊勢海老は成体になるまでの間に「約30回」ほど脱皮を繰り返します。
先ほど触れたフィロソーマ幼生の伊勢海老は脱皮を繰り返すことで「プエエルス幼生」という形態になり、そこから更に脱皮をすることで一般的な伊勢海老の姿へと変わっていくわけです。
ここまで成長するのに約1年が掛かり、そこから1年ほど経つと体長15cmくらいまでに育ちます。
なお、食材としてよく見かける伊勢海老は20cm前後もしくはそれ以上の大きさとなりますので、生まれてからの年数はおよそ3年以上と推測されます。
寿命
伊勢海老の寿命は約30年とされています。
ただし、外敵からの攻撃や漁獲によって寿命まで生きられる伊勢海老はほとんどいません。
ちなみに伊勢海老の死因としてもっとも多いのはタコなどの天敵によって食べられてしまうケースです。
特に幼生のころは他の生き物に捕食されてしまうことが多いので、平均的な寿命で考えれば30年よりもずっと短いと言えます。
また、先ほど触れたように伊勢海老は数多くの脱皮を繰り返すわけですが、この脱皮に失敗して命を落とすことも多いようです。
伊勢海老とロブスターの違い
エビには大きく分けて「歩行型」と「浮遊型」の2種類が存在します。
このうち大型かつ歩行型のエビを英語圏では「ロブスター」と総称し、伊勢海老は英語で「Japanese spiny lobster(棘が多いロブスター)」と訳されます。
ただし、本来のロブスターは伊勢海老と異なり「ザリガニ下目アカザエビ科ロブスター属」に分類されるエビです。
つまり「イセエビ科目」の伊勢海老とはそもそも「生物学上の分類」が違うことになります。
また、海外のロブスターは50cm以上に成長しますが、伊勢海老はそこまで大きく育ちません。(中には1mオーバーのロブスターも存在する)
さらにロブスターは寿命を司る「テロメア」という細胞構造を復活させる「テロメラーゼ」の働きが活発といった特徴を持っています。
これにより理論上は不老不死に近い生き物とされるロブスターですが、伊勢海老にはそういった特徴がありません。
まとめ
日本では昔から高級食材として扱われている「伊勢海老」の特徴や生態をご紹介してきました。
幼生のころに30回ほど脱皮を繰り返し成長するといった生態を持っているところが伊勢海老ならではの特徴です。
そんな伊勢海老の主な産地は三重県や千葉県で、旬は秋から冬にかけての時期となります。
また、見た目的にはロブスターと似ているものの、生物学的には異なる種類ということも分かったかと思います。