この記事ではウミガメの一種である「タイマイ」に関する情報をご紹介していきます。
タイマイは太平洋・大西洋・インド洋など熱帯気候の海域に生息するウミガメです。
日本では沖縄県のいくつかの離島でその姿を見ることができます。
タイマイは日本人にとって馴染み深いウミガメであり、古くは飛鳥時代〜奈良時代から続くべっ甲細工の原料として用いられています。
ここでは、そんなタイマイの特徴や生態を詳しくまとめました。
タイマイの生息地・食性・産卵などに加え、タイマイと他のウミガメの違いや絶滅危惧種に指定されるまでの背景を解説していきますので、ぜひ最後までご覧になっていってください。
タイマイとは?
タイマイは「爬虫綱カメ目ウミガメ科タイマイ属」に分類されるウミガメです。
世界には全部で7種類(または分け方によって8種類)のウミガメが生息していると考えられています。
タイマイはその中でも日本近海で見られる貴重なウミガメの一種です。
ほかにも日本ではアオウミガメ・アカウミガメ・ヒメウミガメ・オサガメといった種類のウミガメが観測されていますが、タイマイは個体数が少ないためダイビングなどで見かける機会がとても稀です。
そんなタイマイは英語で「Hawksbill sea turtle(=ホークスビルシータートル)」と呼びます。
これはタイマイの口元がタカのクチバシのように尖っているからです。
タイマイの口が尖っている理由はこの後に解説する「食性」に関わってくるのですが、簡単にまとめると「主食である海綿類を食べやすくするために進化した結果」と言えます。
大きさ
タイマイは甲羅の大きさがだいたい60cm〜90cmで、体重はおよそ50kg前後となります。
ウミガメの中ではやや小型に分類されますが、こちらはメスのみの計測値なのでオスだともう少し大きくなるかもしれません。
(産卵のため上陸したときにメスの大きさは計測できるが、オスは陸に上がってこないので計測ができない)
なお、タイマイの甲羅は縁がギザギザとしているところが特徴的で、黄色と黒褐色が混じったような色合いをしています。
べっ甲細工
冒頭でも触れたように、タイマイは日本の伝統工芸品である「べっ甲細工」の原料として昔から重宝されてきました。
べっ甲細工の起源は諸説ありますが、日本では西暦600年前後に当時の中国からその技術が伝わってきたと考えられています。
奈良県・正倉院に納められている宝物のうち、国宝にあたる「玳瑁八角杖(たいまいはっかくのつえ)」などはこの頃に中国から贈られたものです。
その後、日本でも独自のべっ甲細工技術が発展し、多くの作品が生み出されるようになりました。
しかし、現在はタイマイの個体数が激減したことにより、原料となるべっ甲の輸入は禁じられています。
タイマイには毒がある?
タイマイは個体によって毒を持っている可能性があります。
そのため、基本的に食用には向きません。
なお、タイマイが毒を持っているのは食べ物に由来します。
(主食である海綿類や藻類に毒が含まれていると、タイマイの身体にも毒が含まれるようになる模様)
すべてのタイマイが毒を持っているわけではありませんが、今でもウミガメを食べる文化がある国では度々「集団食中毒」が発生しています。
実際、2021年にはタンザニアやマダガスカルといった国で複数の死亡者が出る集団食中毒が起きました。
ちなみにこうした国では毎年のようにウミガメ由来の集団食中毒が起きています。
現在のところタイマイを含め、ウミガメが持つ毒に対する解毒剤はないようなので、旅行などで訪れた海外の国でウミガメ料理があったとしても口にすることはおすすめしません。
タイマイの特徴・生態
ここからはタイマイの生息地・食性・産卵といった特徴や生態をご紹介していきます。
生息地
タイマイは太平洋・大西洋・インド洋など、広い範囲に生息しています。
主に熱帯の海域を好み、豊かなサンゴ礁があるところを棲み処として選んでいます。
なお、ほかのウミガメのように同じエリア・同じ海岸で産卵することは少なく、バラバラの場所を繁殖地とするケースが多いようです。
ちなみに日本では沖縄県の離島でタイマイの産卵が確認されていますが、このあたりが太平洋に生息する個体群の北限となっています。
食性
タイマイの主食は海綿類です。
海綿類は「海綿動物」という生物で、主に海水温が高い熱帯の海に多く生息しています。
また、タイマイはクラゲやホヤ、エビやカニなどもエサとするので基本的には肉食性の生き物と言えそうですが、実際には藻類も食べるのでトータルすると「雑食性」の生き物となります。
ちなみに海綿動物というのは身体に大量の微生物や細菌が存在する生き物です。
これと合わせ、毒を持つ藻類を食べることでタイマイの体内にも毒が蓄積するものと考えられます。
産卵
タイマイはほかのウミガメと同様、海岸に穴を掘ってそこに卵を産み落とします。
ただし、ほかのウミガメとは異なり、集団で海岸に上陸するケースは少ないようです。
単独で海岸に上陸したタイマイは、深さ30cmほどの穴を掘り、1回で100個以上の卵を産みます。
卵の大きさは直径3〜4cmで、孵化までに掛かる時間はおよそ2ヶ月です。
卵から孵った稚ガメたちは自力で海まで戻り、成長するにつれて外洋へと出ていきます。
タイマイとウミガメの違い
タイマイとほかのウミガメにはいくつか明確な違いがあります。
ここでは日本でも見られるアオウミガメ・アカウミガメを参考にしながら、タイマイとの違いをまとめてみました。
〇タイマイ
・大きさ60cm~90cm
・尖った口をしている
・両目の間にある額板の数は4つ
・甲羅の縁がギザギザしている
・主食は海綿類でほかにもクラゲや藻類を食べる
〇アオウミガメ
・大きさ90㎝~110㎝(ウミガメ科では最大種とされる)
・比較的丸みのある優しい顔つき
・両目の間にある額板の数は2つ
・丸みを帯びた甲羅が特徴的
・ウミガメ科の中では唯一の草食性(海藻が主食)
関連記事:アオウミガメの特徴・生態!絶滅危惧種レベルについても
〇アカウミガメ
・大きさ80cm~100cm
・顔つきはアオウミガメより険しい
・両目の間にある額板の数は5つ
・甲羅がハート型をしている
・甲殻類や貝類を食べるため顎が発達している
ご覧のようにタイマイとアオウミガメ・アカウミガメには明確な違いがいくつかあります。
特に見分けやすいのは甲羅の形なので、水族館でウミガメたちを見るときには甲羅の形に着目してみましょう。
タイマイが絶滅危惧になった背景
タイマイが絶滅危惧になった背景には大きく2つのポイントがあります。
ひとつ目のポイントは、べっ甲細工の原料として乱獲されたという点です。
1900年代に入ると世界中の国々が貿易を始めるようになり、タイマイの甲羅は高額で売れる製品として扱われるようになりました。
このときの乱獲によってタイマイの個体数は8割減となったそうです。
もうひとつのポイントは、環境汚染による生息地・産卵地の減少です。
油田やガス田の開発によって海が汚されるとサンゴ礁が失われていきます。
タイマイが生息するのに欠かせないサンゴ礁が減れば、必然的にタイマイ自体の個体数も減少するということです。
また、リゾート開発などによってタイマイの産卵地である海岸が失われているというのも要因のひとつと言えます。
まとめ
ウミガメの一種である「タイマイ」の特徴や生態を詳しくご紹介してきました。
ご覧いただいたようにタイマイは日本近海でも見られるウミガメです。
沖縄県の離島であれば野生のタイマイが見られますので、興味がある方はぜひダイビングなどに挑戦してみてください。